所得税減税の現実味と即効性

ニュースでは、岸田政権が所得税の減税を考えているとの記事が出ています。

所得減税、一定額差し引く形が軸 首相指示、低所得者は給付」(共同通信)

背景は政権の不人気と選挙対策と考えられますが、ここでは政治的な要素を極力排して、この時期に所得税の減税が本当に可能なのかを検討していきます。

結論を先に書くと、「まず不可能」です。

今から所得税を減税するとなると、今年分で減税する場合・来年分で減税する場合とも、実務上の大きな問題があるからです。

① 今年分で減税する場合

国税庁ホームページの中に、すでに今年分の確定申告書の様式が「案」として先行掲載されています。⇒ https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei.htm

これは、会計ソフトメーカーが確定申告書のソフトを製作することを考慮したものと思われます。

つまり、実際に法改正して減税しようとすると、少なくとも

「改正条文案を作成」→「国会で審議・採決」→「財務省が改正内容に対応した様式を作成」

→「会計ソフトメーカーが申告書ソフトを開発」

という手順を経る必要がありますから、どんなにスムーズに進んだとしても、申告書ソフトの開発を来年2~3月の確定申告に間に合わせるのは容易ではないと言えます。

また、国税庁が毎年作成する確定申告の手引きなどの冊子も変更せねばならず、かつてほど紙に印刷はしていないものの、そちらの手間とコストも問題になり得ます。

また、年末調整(所得税額計算の部分)は原則として年内に済ませるため、年末調整に関係する部分で改正をしてしまうと、年末になっても正しい年末調整ができないという事態に陥ります。今から法改正をしてしまうと、給与計算ソフトは間違いなく対応できません。

したがって、今年分の所得税額を減税する施策は実務的に無理であると断言しておきます。

② 来年分で減税する場合

今年分がダメなら来年分で減税すればよい、という考えもあります。

これなら上記①の問題点はだいたいクリアできますが、減税の恩恵を受けるまで時間がかかりすぎるという別の欠点が出てきます。

仮に、源泉徴収税額の表を見直すなら、1月から手取りが増えることで減税の恩恵を受けられます。しかし、すでに来年分の源泉徴収税額表も年末調整とセットで準備が進んでいるはずで、今から変更すると印刷物などが間に合わないことは容易に想像がつきます。

来年の途中から源泉徴収税額の表を変更するということは可能ではありますが、経理の現場の対応が必要になるので、あまりやるべきではないでしょう。

そうなると、来年の年末調整や来年分の確定申告で減税するしかなく、これでは恩恵を受けるのが最速でも1年後になってしまいます

 

結局、政権が目論むような即効性のある所得税減税は事実上不可能です。実現性も即効性もない政策をやろうと言い出すのは、衆議院・参議院の補欠選挙が目の前であるというタイミングを考えれば、有権者に対するリップサービスなのは明白です。今後、防衛増税があることが分かっているので、減税すると言っても国民が信用しないのです。

別の問題点として、定率減税を採用すると高額所得者ほど得をしてしまうこと、所得税額がないような低額所得者には減税してもメリットがない、または少ないことがあります。そこで給付を組み合わせる案が出ていますが、3年前の特別定額給付金でのバタバタぶりは記憶に新しいところです。

 

税制改正は、改正法案が成立してから施行までの間に原則として1年以上の期間を空けますが、これは周知期間というより実務上の準備期間として必要であるということが、改めて分かるでしょう。

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